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He's Dreamin' in the Moon

『月読の夢』 
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花さそふ 嵐の庭の 雪ならで


 25話派生ネタです。
 両片思いシリーズの二人だったら、合間にこんなやり取りがあったんじゃないかな、という妄想(爆)。

 いつにも増して暗いですので、ご注意ください。
 エログロはない筈です。

 藤堂さん視点で行きます。ルル視点は…察してください。
 
 それでもイイよ、という方は以下よりどうぞ。



【花さそふ 嵐の庭の 雪ならで】



 固く閉ざされていた鉄格子が軋んだ音を立てる。
 失血と空腹に朦朧とした視界を、見るもおぞましい白装束が横切る。

「無様だな、藤堂」

 今や世界を掌握した暴君。残虐皇帝ルルーシュ。
 常ならば簡単に捻り潰せるだろう細い身体が目前にあるというのに、疲弊しきった筋肉はびくとも動かない。
 辛うじて動く首を回して、真っ直ぐに紫暗の瞳を睨めつけた。

「何の用だ?」
「腹が減ったろう。今貴様に死なれては困ると思ってな」
「この期に及んで、情けなど無用」
「ふん。俺に従わぬつもりか」

 ルルーシュは興を削がれた様子で、背後に向かって顎をしゃくった。
 独房に一人の男が入ってくる。バイザーで隠されて、顔が見えない。
 ギアスに操られた哀れなブリタニア兵の一人だろう。
 男はルルーシュに命ぜられるまま、藤堂の身体を引き起こし、羽交い絞めに拘束した。

「っ。何を…!?」
「決まっているだろう?」

 音もなく、白い手が伸びてくる。
 一筋の朱が、耐え難い誘惑を纏って、口内に捻じ込まれた。
 刹那広がる、毒々しくも甘い香り。
 繊細な美貌に蕩けるような微笑を湛えて、ルルーシュが告げる。

「さあ、餌の時間だ」

 後は無我夢中だった。
 思えば騎士団から『ゼロ』が消えて以降、藤堂は一切『食事』を摂っていない。
 空腹に耐えかねて、一度は野兎を捕らえて裂いてみたものの、芳醇な『ゼロ』に慣れた舌は、他の血を受け付けようとしなかった。
 過ぎた飢餓に、全ての感覚が麻痺した状態で戦い続けていたのだ。満身創痍になるのも無理はない。

 ぼろぼろの身体に、少しずつ活力が染み渡っていく。
 同時に理性が立ち返ってきて、藤堂はルルーシュから離れようともがいた。
 鋭い犬歯が傷に食い込み、ルルーシュの白面を歪ませる。

「こんなものか」

 ゆっくりとした動きで、繊手が引き抜かれる。薄紅の糸が、きらきらと口の端を伝う。
 ルルーシュは鮮血の滴る指を、見せ付けるようにして舐め上げた。

 ごくり

 意図せずして、藤堂の喉が鳴る。
 くつり、と笑って、ルルーシュが身を屈める。
 重なり合うふたつの唇。
 柔らかな感触の隙間から、命の甘露が流し込まれる。
 本能のままに舌を絡め合わせる最中、ふと前にもこの唇を味わった事があるような気がした。

 長いような短いような不思議な一時が過ぎると、ルルーシュは青褪めた頬に勝ち誇った笑みを乗せた。

「やはり、食欲には勝てぬようだな」
「貴様…!!」

 殴り飛ばしてやろうとするも、羽交い絞めにされていてはかなわない。
 渾身の力を込めても全く動じない腕に、藤堂は舌を巻いた。かなりの膂力の持ち主だ。

「お前くらいは、連れて行きたかったのだが…」
「誰が貴様などに従うか!!」

 ルルーシュが藤堂のどこに利用価値を見出しているかは知らない。知りたくもない。
 藤堂がルルーシュに付く気がない以上、知っても意味のないことだ。

 激情のままに叫び連ねると、ルルーシュの身体がぐらりと傾いだ。
 藤堂を捕らえていた男が信じられない素早さで、落下地点に滑り込む。
 白装束の身体が力強い腕に抱きとめられた。
 その瞬間、ほっと安堵を覚えた自分に気付き、藤堂は唇を噛んだ。
 ルルーシュの本性を知ったというのに、なお残る情があったとは。

「…陛下、そろそろ」
「……ああ。そうだな」

 青褪めた顔が、藤堂に向かって小さく微笑む。
 悟りすまし、諦めきった、儚い笑顔。
 
 虚を突かれた藤堂が声を失っている間に、悪の権化とも言うべき主従は去ってしまった。









 一体何が起こったのか、理解できなかった。
 憎むべき白い男が、明らかな致命傷を負っている。
 ナナリーの傍らで力なく横たわっていたルルーシュが、ほんの一瞬、藤堂へ視線を向けた。
 そのとき。
 藤堂は天啓のように悟った。悟ってしまった。

      貴方くらいは、一緒に連れて行きたかった…   

 愛されていたのだ。
 こんなにも愛されていたのだ。
 自分も、世界も。
 ルルーシュという一人の人間に、こんなにも愛されていたのだ。

(待ってくれ! 俺も行く! 着いて行かせてくれ!!)

 叫びたいのに、舌は凍りついたように動かない。
 見開いた視界に、あの日と同じ笑顔で事切れる愛しい姿が映し出される。

(君じゃない! 君じゃない筈だ!! 消えるべきなのはむしろ…!!)


 君を見捨てた、この世界。







<後記>
 本当は昨日(9/30)中にアップしたかった話です。忍者さんのメンテナンスに阻まれたので、遅ればせながら今日アップ。
 最終話を見終わって、もう一回見て、一時間くらいで書き上げました。
 ルルは誰よりも世界を愛してて、誰よりも我儘な奴だったんだなぁ、としみじみしてたら出てきたんです。何故か。
 こんな話ばっか書いてますが、管理人は藤堂さんもルルも好きです、と宣言しておきます。

 因みに、お察しかとは思いますが、作中のブリタニア兵は、例の身体能力がありえない南の四神さん(笑)です。彼は藤堂さんの餌という点でもルルの跡を継ぐ事になります。
 藤堂さんは将来の日本と騎士団に必要な人(&生きて幸せになって欲しい人) → 新しい餌が必要 → 『…スザク、もうひとつ頼みたい事があるんだが…』
 って感じでしょうか?

 本作で両片思いシリーズの一つのパターンは完結です。
 こっちのルートではこれ以上書きません。…スザク視点で『食事』を拒否る藤堂さんに『貴方には生きる義務がある』とか言う話は思いついてるんですけど、明らかに蛇足ですしね(汗)。
 別ルートで、もう少し幸せな二人を書こうと思います。

 最後に題名の和歌を。

 『花さそふ 嵐の庭の 雪ならで ふりゆくものは わが身なりけり』
 (新勅撰和歌集・16・雑1・1052 藤原公経)

 桜の花を散らせる風吹く庭は、まるで雪が積もっているようだが、本当に「ふりゆくもの(老いていくもの・散っていくもの)」に相応しいのは、自分の方だったのだ…
 

 最後まで読んで下さった皆さま、ありがとうございました!

 
 
 







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