忍者ブログ

He's Dreamin' in the Moon

『月読の夢』 
[4]  [9]  [6]  [5]  [3]  [2]  [1

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

君が行く 道のながてを 繰り畳ね

 
 『眠れぬ夜の世迷言』と同じ設定の藤堂さん視点です。

 『眠れる~』と時系列が前後しています。
 どちらから読んでも構いませんが、先に『眠れる~』をご覧になった方が分かりやすいかと思います。

 『眠れる~』より少しは明るくするつもりです。
 ただし、管理人的には『眠れる~』も、只のちょっとほろ苦いラブロマンスのつもりでしたので(皆さんの反応からすると違うようですが)、コレもどうなる事やら…。

 タイトルは万葉集より。お暇があれば解釈を探してみて下さい。
 管理人が幼心に軽くトラウマになった和歌の上の句です。
 今回は本来の解釈とは別の意味も込めていますが…分かったという方、推測でも当てずっぽうでも構いませんので、ご一報くだされば幸いです。 


 上記を読んだ上で、OKという方、以下よりどうぞ。








【君が行く 道のながてを 繰り畳ね】





「限界だ」

 すれ違う腕を捕らえると、ゼロは小さく頷いた。

「後で部屋に行く」
「もう待てない」

 進路を塞ぎ、華奢な身体を抱え上げる。
 ゼロの口から頓狂な悲鳴が漏れる。
 
「っ! 藤堂!!」

 仮面を付けた頭が藤堂に向けられる。
 お得意の弁舌でも揮うのかと思いきや、ゼロは何も言わずに藤堂の肩を強く掴んだ。





 いくら食べても物足りない。
 いくら飲んでも渇きが治まらない。
 満たされぬ欲求に、いつも同年代の子らの倍以上は食べていた。

 そんな藤堂を他所に、両親は食事時でも何も食べようとはしなかった。
 大人になれば、食べなくても大丈夫になる。
 そう言って、息子のためだけに食卓を整え、一抹の寂寞を混ぜた微笑を浮かべていた。

 それが藤堂にとっての『当たり前』で『日常』だった。
 疑いを差し挟む余地はどこにもなかったのだ。


 ところが。

 撥ね飛ばされた瀕死の猫。
 白茶けた路面に散る暗い暗いアカ。
 それを旨そうだと思う自分。

 人として摺りこまれた常識に抗う本能を、反射的に拒絶しようとして、できなかった。 

 
 その日、藤堂は生まれて初めて生き血を口にした。
 
 自らが尋常ならざる生を受けたのだと悟ったのも、同じ日の事だった。



 それ以降、藤堂の体が血液以外の食物を欲する事はなくなった。
 己が本能を直隠しに隠し、生きていけるぎりぎりの量しか摂らぬよう、自制に自制を重ねる日々。

 そして、かの少年がやってきた。

 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア

 遠く微かに、容貌も確とは見えぬ距離から立ち上る香気。
 無垢でありながら蠱惑的な、甘い匂い。

 敵国からやってきた人質は、我を忘れて襲い掛かってしまいそうになるほど、魅力的な『糧』だった。

 このまま傍に居ては、いつ牙にかけてしまうか分からない。
 意識的に兄妹から距離を置き、できるだけルルーシュに関らぬようにした。

 しかし、母を喪い、父に捨てられ、体の不自由な妹を守るべく必死に生きるその姿は、否応なく藤堂の視界に飛び込んできた。
 眩しいほどに鮮烈な魂に、好意を持たずにいられなかった。
 理不尽な待遇を受ける様子に、手を差し伸べずにはいられなかった。

 欲望を押し殺し、一人の人間として接していく内に、ルルーシュの方も心を開こうとしてくれていた。
 今となっては事実は分からないが、自分とルルーシュとの間には、幾許かの信頼関係があったと、藤堂は信じている。

 だからこそ、浅ましい己の本能が許せなくなったのだ。


 ルルーシュ兄妹が殺されたという報せに、反射的に感じたのは、哀しみでも怒りでもなかった。


       ナンテ モッタイナイ
       
       ドウセ シヌナラ 『タベテ』オケバ ヨカッタ…

       アンナニ ウマソウ ダッタノニ… 
 

 いっそ死んでしまおうかと思うほどの嫌悪を覚えた。
 決して長くはないが、共に穏やかな時を過ごした相手に対し、かくも浅ましくなれるものなのか。 
  

 だが、藤堂は死ねなかった。
 恩義ある上司。自分を慕う部下たち。侵略者に虐げられる人々。
 日本の為、彼らの為に、やれるだけの事をやらねば。
 それが死んだ者たちへの供養にも繋がる筈と信じて、我武者羅に突き進んだ。


 そうして。
 藤堂は新しい運命に出会った。







 薄闇に、かぼそい悲鳴が溶けていく。
 組み伏せていた身体が、くたりと力を失ったのに気付き、藤堂はゼロの手首を放した。
 解放された腕が、重力に従って、だらりと垂れ下がる。
 
「ゼロ?」

 呼び掛けるも、応えはない。
 少々『食べ過ぎた』か、と僅かばかり申し訳なく思う。
 ゼロの、今は晒されている、青白く燐光を纏っているようにも見える首には、藤堂の牙と同じ形の穴が二揃い。
 まだ塞がりきっていない一対から、ひとつ、ふたつと命の雫が滴り落ちる。
 それを丁寧に舐め取って、藤堂はゼロを横抱きに持ち上げた。

 重たい衣装を着ているくせに、ゼロの身体は驚くほど軽い。おそらくカレンや千葉より二回りは軽いだろう。
 当のカレンや千葉に知れれば袋叩きでは済まない事を考えながら、寝台にゼロを横たえる。
 騎士団支給の無骨な寝台が、いっそ滑稽なまでに似合わない男だ。

(いや、少年、と言うべきか?)

 こうしてゼロを『糧』とするのも、もう幾度目か分からない。
 正体を暴かれる事を恐れるゼロは、喉元を見せる以外は手袋さえ外そうとしないが、かなり年若だと察するには、それだけでも十分だった。
 ルルーシュと殆ど変わらぬ年齢だろう。

 こんな若者、それもブリタニア人が、何を思って反逆の指揮をとっているのか。
 それを思うと、既に打ち砕かれた筈の期待が、むくむくと頭を擡げてくる。

 ゼロ、即ちルルーシュなのではないか、と。

「有り得ん」

 独り言ち、自嘲する様に鼻で笑う。
 
 ゼロの匂いは、ルルーシュのそれとは全く別物だ。
 甘く蠱惑的、という点はルルーシュと同じだが、無垢とはまるで違う。
 例えるなら、ルルーシュは咲き初めの薔薇、ゼロは盛りを迎えた芥子の花、といったところか。

 誇り高く咲き、誇り高く散る薔薇と、堂々と咲き、存在感を放ちながら、凶悪な阿片を孕む芥子の花。
  
 決して同じでは有り得ない。

 そもそも、ゼロがルルーシュであるならば、あんな事をせずとも、藤堂を騎士団に引き入れられた筈だ。
 『人間』として生きようとする藤堂の覚悟を踏みしだき、自らの尊厳を売り渡すような真似をせずとも、一言『共に戦おう』と言えば良いと、そう分かっていた筈だ。
 
 ゼロはゼロであって、ルルーシュではない。理性では重々分かっている。
 だが諦めの悪い感情は、なかなか納得しようとしない。

「…ん、と、…どぉ」

 仮面越しにくぐもった声が漏れる。
 気が付いたのかと思いきや、ゼロはもぞもぞと敷布を手繰り寄せて、健やかな寝息を立て始めた。
 本来なら不気味に思えるはずの光景が、何故か微笑ましく見えて、藤堂はゼロの剥き出しの首に指を這わせた。

(本当は、認めたくないだけなのかも知れんな)

 ゼロに      冷酷非道な指揮官で、出自も何もかも不明の不審人物で、極上の血の持ち主で、藤堂の生き様を穢した、憎んでも憎みきれぬ卑怯者で、そして時折あまりにも無防備で不器用な、一人の少年に       惹かれはじめている事を。
 白い首に残る歯型に、言いようのない愉悦を覚える事を。
 あまりにも細い身体に、食欲とは違う、別の欲を感じている事を。


 戦うことしか知らぬ手の下で、頼りない鼓動が脈打つ。
 それがこの上なく尊い事に思えて、藤堂は敷布を掴む黒手袋に、恭しく歯を立てた。


 
 いとおしくも憎らしい男の作る、血塗られた道。
 どこまで共に行くべきか、結論は未だ出ない。
 



<後記>
 またも尻切れ(汗)。
 訳の分からなさも上がってますね。
 今度は怖くもエロくもない筈ですが、いかがでしょうか?

 何だかシリーズ化してしまいそうな勢いです。三連作くらい行くかも知れません。
 ぴったりの和歌も思い当たるのが二つほどありますし、和歌シリーズで纏めるかも…。

 今回もお茶会に参加しておられた方、藤ルル好きーの方に限り、お持ち帰りOKにしておきます。
 気が向けば『持って帰ったよー』と一言教えて頂けたら、と思います。喜びの余り藤ルル更新率が上がるかも知れません(笑)。

 読んでくださってありがとうございました!!


 最後に。
 タイトルの和歌をフルで。
 『君が行く 道のながてを 繰り畳ね 焼き滅ぼさむ 天の火もがも』
 (万葉集15・3746 狭野弟上娘子(さののおとがみのをとめ))



  

 


 
 





PR
Submit Comment
name
title
color
mail
URL
comment
password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
こんばんは
こんばんは。
メールのお返事、送信させていただきました。
hotmailがどうもおかしいので、届くまで時差があるかもしれません。
次回からは違うメルアドで送ります(笑)
プロフの所、良く見たら移転前のアドレスが残っているだけですね。
勘違いしてしまってごめんなさい。

金魚の件、お気遣いありがとうございます。
深く落ち込んでいるわけではなくて、たとえ金魚でも愛着があると微妙に寂しいものだなぁと思ってるだけですので。
めちゃくちゃ元気ですよ!

君が行く~、藤堂さんの病みっぷり(闇?)が強調されてますね~。
眠れぬ夜~の一途なルルも可愛いんですよ!
どう表現したらいいのか考えてたんですが、この作品のルルみたいなキャラってヤンデレって言うんですよね!
やっとしっくりくる言葉が見つかりました(笑)
ヤンデレルル、可愛いですよ!
藤堂さんにはルルを末永く愛でて欲しいですv(それって飼い殺し……/汗)
それでは、失礼いたします。
椎名紀伊 2008/09/12(Fri)00:31:22 編集
Re:こんばんは
 いつもコメントありがとうございます。

 金魚の件は、最近ウチの愛犬やら愛亀やらが次々と他界した事もあったので、ちょっと他人事とは思えなかったんです。お元気そうで良かった!


 ヤンデレ…そうか、こういうのがヤンデレなんですね! 管理人、気付かぬうちに受けをヤンデレ化させてきていたのかも知れません(汗)。
 可愛いと言って頂けて嬉しいです♪

 藤堂さんは、ルルに比べればまだ重症じゃないんです。何せ ゼロ=ルル に気付いてませんから。気付いたらどうなるかは、管理人にも予測が付きませんけれど。

 勢いで進めてきましたが、次回からは更新に時間がかかるかも知れません。
 …明日が待望のゲームソフト発売日なので、暫らくサイトそっちのけでDSにかぶりついているかと(汗)。
 
 読んで下さって、ありがとうございました!!
【2008/09/12 17:55】
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
[02/04 通りすがり]
[01/30 通りすがり]
[01/30 通りすがり]
[09/12 椎名紀伊]
[09/08 椎名紀伊]
忍者ブログ [PR]
Template by repe