He's Dreamin' in the Moon
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王様の日常 -ヤマブキ王国物語-
ヤマブキ王国シリーズの原点ともいうべき本作(笑)。
元々は2007年に華麟へのバースデープレゼントとして書いたお話です。
華麟から許可を貰ったので、こちらにもアップします。
例の如くミナミがかーなーり!贔屓されてますよー♪
『王様の日常 -ヤマブキ王国物語-』
ヤマブキ王国王城の一日はとても忙しい。
朝はまず各国からの使者兼偵察隊を出迎え、それから毎日の業務、使者の案内に晩餐会と、休む間もない。
ミナミは今、ヤマブキがその技術を誇る生糸工場に使者の一団を案内していた。
「とまあ、こういう原理で糸が安全に取り出せるんだ」
なるほど、と全員の頭が同時に頷く。それぞれヤマブキの技術を盗んで来いと厳命されてきたのだろう。目の色がかなり真剣だ。
「質問しても?」
やけに色っぽい声の使者が手を挙げる。
「ルドルフ公国のミヅキさん、だったよな。どうぞ」
んふ、と薄笑いを浮かべて、ミヅキは続けた。
「こんなにあっさりと『機密』を教えてしまって良いのですか? ま、我々としてはありがたいことですけど」
暗に何か裏があるのではないかと訊かれたのだ。ミナミはちょっと苦笑してみせた。
「別に、俺たちは生糸製法は機密なんかじゃないと思ってるからな。それに旧来のやり方だとリスクが高くて、事故も頻発してる。それじゃあ生糸産業に就きたい、続けたいと思う人が増えないのも当然だし、いつまでたっても一般に綿製品が行渡らない。その状況で困るのは、ヤマブキだって同じなんだ」
だから裏なんてない。
ミナミの言葉に、ミヅキは鼻白んだ。
「なるほど。ヤマブキの国王陛下は、よほどオメデタイ方のようですね」
「ちょっ! ミヅキさん!!」
ミヅキの暴言に、ルドルフからのもう一人の使者が慌てた様子で頭を下げてくる。どこか仔犬を思わせる少年に気にするなという思いを込めた笑みを向け、ミナミはこう締めくくった。
「よく言われるよ」
生糸の次は鉄、その次は油と様々な施設を見て回ると、あっという間に日が暮れた。
「これで案内できる場所は終わりかな。他に見たいものがあれば、明日以降に申し出てくれ。できるだけ善処するから」
にっこり
微笑むと使者たちの表情も緩む。
それにほんの少し罪悪感を抱きつつ、ミナミは笑顔のまま続けた。
「でも、夕食の前にこれにサインしてもらえるかな?」
声と同時に、控えていた侍従たちが、国ごとに一枚ずつ書類を配っていく。
「っ!? これは!」
セイガク王国のイヌイが緊迫した声をあげる。
書類は、簡単に言えば『不可侵条約&技術協約に関する同意書』だった。
つまり、『今日手に入れた技術情報はお好きに使っていいですよーその代わりウチの国攻めないで下さいねーついでに技術開発進んだらウチにも教えてくださいよー』という事だ。
「まあこの程度は覚悟してきただろう?」
いつの間にか傍に立っていた宰相のヒガシカタが呆れた様子で肩をすくめる。
「サインしなかったらどーなるかは、わかるよね?」
侍従姿の将軍センゴクが黒さをにじませた笑顔で凄む。同じく将軍のアクツが無言で鞘つきの剣を振った。
「…ヒョウテイとリッカイの使者にも同じことを?」
「まあね」
ずいぶんと怒っていたが、最後には大人しくサインしてくれた。
そう告げれば、使者たちは一様に脱力した。
ミナミの態度ですっかり忘れていたが、この国は小さな国土で列強と渡り合う強かな国なのだ。油断していた自分たちが悪い。
「…前言撤回しますよ」
ミヅキがわなわなと震えながら睨み付けてくる。
「あなたを案内役にして油断させたところに選択肢のない選択を押し付けるとは!何て強かな王様でしょうね!!」
ぜはーぜはーと荒く息をつくミヅキ。
ヒガシカタは更に呆れた様子でミナミに向き直った。
「…お前、また言わなかったのか?」
「忘れてたんだよ」
ミナミが肩をすくめてみせると、今度は侍従たちから溜息。アクツも頭痛をこらえるかのようにこめかみを押さえているし、センゴクに至っては腹を抱えて大爆笑だ。
顔に疑問符を貼り付けている使者団に向かって人の悪い笑みを浮かべ、ヒガシカタは大げさな仕草で跪いた。
「どうやら誰も気付いていなかったようですよ、陛下」
「お前にそんな風にされると怖いな」
困ったように頬を掻きながらも、ミナミはヒガシカタの言葉を否定しない。
次の瞬間、その場に使者たちの絶叫が木霊した。
ヤマブキ王国の王は、希代の名君と言われている。
彼に直接対面した者は、彼をとんでもない天然ボケか、さもなくば史上最強の腹黒である、と何とも両極端な評価をするとか。
今日もヤマブキ王国は平和だ。
〈fin〉